「鮭(サケ)って、どうして自分が生まれた川がわかるの?」
秋になると、川をのぼるサケのニュースを見かけますよね。子どもに聞かれて、うまく答えられなかった人も多いのではないでしょうか。
先に答えると、サケは川の「におい」を稚魚のころに覚えていて、そのにおいを手がかりに帰ってくると考えられています。においのもとが何なのかも、研究でかなり分かってきました。
この記事では、海や魚にくわしいカエルが、研究機関の資料をもとに、においで帰るしくみ、何年で戻ってくるのか、生まれた川に戻る確率、そして2026年の秋サケの不漁まで、1本にまとめました。
この記事は2026年10月28日時点の情報です。サケの来遊数は、水産研究・教育機構の速報(9月30日現在)と、北海道立総合研究機構(道総研)の予測をもとにしています。
鮭はなぜ生まれた川に戻る?先に答えると
サケは、川で生まれて海で大きくなり、卵を産むために生まれた川へ帰ってくる魚です。北海道立総合研究機構(道総研)の解説でも、サケ・カラフトマス・サクラマスは「川で生まれ、海で育ち、親となって自分の生まれた川へ産卵のために戻ってきます」と説明されています。
では、どうやって生まれた川がわかるのか。青森県の環境科学技術研究所の解説では、川にはそれぞれ化学物質の組み合わせでできた特別なにおいがあり、サケはそのにおいを頼りに帰ってくることが、いろいろな実験で分かったとされています。
しかも、このにおいの記憶は親から受けついだものではなく、成長のある時期に覚えこむものだそうです。
| ぎもん | 研究で分かっていること |
|---|---|
| 何を目じるしに川を選ぶ? | 川の「におい」 |
| においの正体は? | 川の水に溶けているアミノ酸の組み合わせ |
| いつ覚える? | 稚魚が川を下って海へ向かうころ |
| 広い海ではどうやって方角を知る? | 体内時計・磁気コンパスなどの説があるが、まだはっきりしていない |
川の「におい」の正体は?アミノ酸とバイオフィルム
「川のにおい」と言われても、ちょっとピンときませんよね。
サケの母川回帰(生まれた川=母川に帰ること)を長年研究してきた北海道大学名誉教授の上田宏さんは、2017年度(平成29年度)の日本水産学会賞を受けています。その受賞の紹介によると、上田さんの研究で次のことが分かりました。
- サケが感じとっているにおいの成分は、川の水に溶けているアミノ酸(溶存遊離アミノ酸)
- そのアミノ酸のおもな出どころは、川底の石などにつく微生物の集まり「バイオフィルム」
- アミノ酸の組み合わせをまねて作った「人工の川の水」を使った実験などから、サケの親は川ごとのアミノ酸の組み合わせを見分けている
この発見は、川のにおいの成分を特定した世界で最初の研究例として、国内外で注目されたそうです。
上田さんの別の論文の要約でも、サケは嗅覚(においを感じる力)で「河川固有なアミノ酸組成」を見分けていると紹介されています。川ごとにちがうアミノ酸の組み合わせが、サケにとっての「ふるさとのにおい」になっている、というわけです。
においを覚えるのは、海へ下るとき
サケの稚魚は、海へ下るころに体が銀色になり、海水にたえられる体に変わっていきます。水産研究・教育機構の資料では、このときの変化のひとつとして「母川記銘」(生まれた川を覚えること)が挙げられています。
上田さんの研究では、稚魚が川を覚えるときには脳下垂体と甲状腺のはたらき、親になって川に帰るときには脳下垂体と生殖腺のはたらきが、記憶にかかわる遺伝子を通して大きな役割をはたしていることも分かっています。
子どものころに覚えて、おとなになって思い出す。サケは、そんなしくみをもっているんですね。
広い海ではどうやって方向がわかる?
川のにおいがわかるのは、川の近くまで来てから。何千キロもはなれた海の上で、においだけを頼りに帰ってこられるのかは、また別のなぞです。
環境科学技術研究所の解説では、体内時計や磁気コンパス(地磁気)を使う特別な航海術で帰ってくる説、ほんのわずかなにおいを感じて帰ってくる説など、いろいろな説があるものの、まだはっきりしたことは分かっていないとされています。
上田さんの別の論文の要約では、北の海から北海道の川に帰るシロザケなどを調べ、目(視覚)を使って、まっすぐ母川へ向かう行動や、脳から出るホルモンが回帰の行動を調節していることなどが分かってきた、と紹介されています。
海の上でどうやって方角を知るのかは、まだ研究の途中。でも、川のにおいで自分の川を見分けていることは、かなり分かってきています。
鮭は何年で生まれた川に戻る?海での長い旅
日本の川で生まれたサケは、海でぐんと大きくなります。水産研究・教育機構の発表(2026年8月)では、日本生まれのサケは次のように海を旅して、生まれてから3〜5年後に生まれた川に戻ってくると説明されています。
| 時期 | いる場所 |
|---|---|
| はじめ | 川で生まれた稚魚が海へ下る |
| 最初の夏 | オホーツク海 |
| 最初の冬 | 北太平洋の西部で冬を越す |
| 次の夏から | えさの多いベーリング海へ。その後、ベーリング海とアラスカ湾を行き来する |
| 3〜5年後 | 生まれた川に帰ってくる |
水産研究・教育機構のデータでは、サケは4年魚(生まれてから4年後に戻る魚)がいちばん多く、2〜8年魚まで確認されています。
環境科学技術研究所の解説によると、海で3〜5年を過ごすあいだに、体長は10〜15倍、体重は1000〜3000倍にも成長するそうです。指ほどの大きさだった稚魚が、見ちがえるほど大きくなって帰ってくると思うと、すごい旅ですよね。
生まれた川に戻る確率は?迷う魚はごくわずか
生まれたサケのうち、どれくらいが帰ってこられるのでしょうか。
環境科学技術研究所の解説では、サケは1尾で約3,000粒の卵を産みます。そして、海で大きくなって帰ってくる率は0.5〜5%で、そのうち約8割がふるさとの川に戻ってくるといわれている、とされています。
いまは、卵から海に下るまでのあいだを、ほとんどの場合、人工ふ化放流の事業で人が管理しています(環境科学技術研究所)。道総研によると、北海道では毎年約10億尾の稚魚が放流されています。
では、帰ってきたサケは本当に生まれた川を間違えないのか。一方で、北海道で実際に標識をつけて調べた調査もあります。水産研究・教育機構の資料(2016年)では、北海道の10の川で2009〜2014年に帰ってきたサケ57,238尾の耳石(耳の中の小さな骨)を調べたところ、放流された川とちがう川に入っていた魚は95尾だけでした。
この結果から、サケが生まれた川に戻る正確さはきわめて高いと考えられています。
耳石温度標識:卵や稚魚のころに水の温度を規則的に変えて、耳石にバーコードのような模様をつける方法です。放流する川ごとに模様を変えておくと、帰ってきたサケがどこの川の出身かが分かります。
秋サケが取れないのはなぜ?2026年は1989年以降で最少
ところが、帰ってくるサケの数そのものが、近年大きく減っています。
水産研究・教育機構の速報(9月30日現在)では、2026年の全国のサケの来遊数(沿岸でとれた数と川でつかまえた数の合計)は239万尾で、1989年以降でもっとも少なくなっています。
道総研は6月の時点で、2026年に北海道に帰ってくる秋サケを365万尾と予測していました。2025年は686万尾で、前年の39%(約6割減)と、平成以降で最低の水準でした。2026年の予測は、その53.1%です。
| 項目 | 数 |
|---|---|
| 2026年の全国の来遊数(9月30日現在) | 239万尾(前年同期の68%・平年同期の12%) |
| 2026年の北海道の来遊予測(道総研・6月) | 365万尾(前年の53.1%) |
| 2025年の北海道の来遊数 | 686万尾(前年の39%・平成以降で最低の水準) |
回帰率(放流した数に対して戻ってきた割合)も下がっている
水産研究・教育機構は、4年前に放流した数に対して、その年に帰ってきた数の割合を「単純回帰率」として出しています(4年魚がいちばん多いことを使った、かんたんな目安です)。
全国の単純回帰率は、1996年度には4.52%ありましたが、2025年度は0.66%まで下がっています。
どこで減っている?ベーリング海までの生き残り
水産研究・教育機構が2026年8月に発表した研究では、夏のベーリング海で15年にわたって調べた結果、日本生まれの若いサケがベーリング海に多い年ほど、のちに日本へ帰ってくるサケも多いことが分かりました。
そして、日本を出発して北太平洋の西部で冬を越すまでに生き残るサケが、近年少なくなっていることが明らかになったとしています。
ベーリング海には、ロシアや北米生まれのサケも集まり、えさをめぐって競争している可能性も示されています。
川に帰るしくみはしっかりしていても、その前の海の旅がきびしくなっている。不漁の背景のひとつとして、こうした研究が進められています。
10月29日(木)の「トリセツショー」でもサケを特集
2026年10月29日(木)のNHK総合「あしたが変わるトリセツショー」は、サケの特集です。番組表の紹介文によると、焼きザケをふっくらジューシーにするコツのほか、「サケが6000キロも旅して戻る神秘の生態」も紹介されます。
あしたが変わるトリセツショー「サケが感動の食感!ふっくら&ジューシー」
NHK総合 2026年10月29日(木)19:30〜20:15
出演:石原さとみ、柴田英嗣、大沢あかね ほか
番組を見ながら「なんでサケは川に戻れるの?」という話になったら、この記事の答えも思い出してみてください。
子どもに聞かれたら?30秒で話せる答え
「サケはどうして生まれた川に帰れるの?」と聞かれたら、こんなふうに答えてみてください。
「川には、それぞれちがう『におい』があるんだって。サケは赤ちゃんのころ、海に行くときに自分の川のにおいを覚えておくんだよ。何年も海を旅して大きくなったら、そのにおいをたどって、生まれた川に帰ってくるんだって。海の上でどうやって方角が分かるのかは、まだなぞなんだよ。」
まとめ:鮭は「ふるさとのにおい」をたどって帰ってくる
- サケは、川の「におい」を手がかりに生まれた川へ帰ってくると考えられている
- においの正体は川の水に溶けたアミノ酸で、おもな出どころは川底のバイオフィルム
- においは稚魚が海へ下るころに覚え、親になって帰るときに思い出す
- 広い海で方角を知るしくみは、体内時計や磁気コンパスなどの説があるが、まだはっきりしていない
- 生まれてから3〜5年後に戻ってくるものが多く、4年魚がいちばん多い
- 生まれた川を間違える魚はごくわずかで、戻る正確さはきわめて高い
- 2026年の秋サケは、9月末時点で1989年以降もっとも少ない来遊になっている(水産研究・教育機構の速報)
11月においしい魚は、こちらの記事でまとめています。
11月の旬の魚はどれ?おいしい魚5選と子どもが喜ぶ食べ方
参考:
環境科学技術研究所「ミニ百科 第7号・なぜサケは母なる川に帰ってくるのか」
日本水産学会誌「平成29年度日本水産学会賞 太平洋サケの母川記銘・回帰機構に関する研究」(J-STAGE)
上田宏「サケの感覚機能と母川回帰」(バイオメカニズム学会誌・J-STAGE)
水産研究・教育機構「増殖事業におけるサケ・マス類の回遊と生理」(SALMON情報 No.19・PDF)
水産研究・教育機構「サケの数が決まる、ベーリング海までのサバイバル」(2026年8月25日・PDF)
水産研究・教育機構「サケの放流数と来遊数及び回帰率の推移」
水産研究・教育機構「サケの母川回帰精度について」(SALMON情報 No.10・PDF)
水産研究・教育機構「さけます来遊速報(令和8年度)」
道総研 さけます・内水面水産試験場「令和8年(2026年)の秋サケの資源状況について」(PDF)
道総研「さけますとは何か(サケ科概説)」
道総研「サケの漁業と増殖」
Gガイド「あしたが変わるトリセツショー」


